抗がん剤は使ってはいけないのか(抗がん剤が得意な病気と不得意な病気)
抗がん剤は毒薬なのか?
抗がん剤は毒薬だから使ってはいけない!
そんな書籍やネット記事を見ることがあります。
確かに、抗がん剤の多くは毒薬です。添付文書を注意深く見ると、こっそり毒薬とか劇薬と書かれています。
添付文書を見るのは専門家ですし、色も赤で縁取ってあったり色々しますのでこっそりと言うのは言いすぎでしょうが、小さな字で書いて有ることは間違いありません。
日本国も認めた毒薬だと言われれば、本当のことです。
現在の様な抗がん剤の始まりは、ドイツ軍が開発した毒ガス、マスタードガスです。
毒性を弱めて抗がん剤にしたかと言われると、致死量はほぼ同等ですから、兵器としては使いにくく人を殺さない程度にコントロールしやすく改良したのだと思います。
抗がん剤を投与している患者さんや付き添った事がある人なら知っている方もおられるでしょうが、抗がん剤投与中の排泄物処理は、厳重にしなければなりません。
投与完了から48時間の間は、まわりに飛び散らないように、掃除をするときは素手なんてトンデモナイ!という扱いです。
医療関係者は、基本的に完全防護で汚物処理をすることと言うルールがあるほどです。
さて、これらは間違いの無い事実です。
だから使ってはいけない!
だから使わない!
というのは流石に乱暴かなと思うわけです。
抗がん剤が明らかに有効な場合がある
がん患者さんは、高齢の傾向があるので知っている方が多いと思いますが、昔は「白血病」と聞けば不治の病を意味しました。
今では、不治の病ではありません。完全に寛解する方を含めて、半数近い方には明らかに効果があります。
悪性リンパ腫にしてもそうです。
今流行の?オプジーボはそんなに効くわけではありませんが、進行した悪性黒色腫の患者さんは死を待つのみと言う状況が続いていました。
しかしオプジーボの登場によって、腫瘍の喪失すら視野に入れた治療ができるようになりました。
肺がんの分子標的薬、イレッサだって、効果がある人には年単位で病気の進行が止まります。
昔は、肺がんと言えば、あっという間に結果が出てしまう病気でした。
半年でも御の字、1年なんて夢のよう。ちょっと書きすぎかも知れませんが、こんな感じでした。
その間も病気は着実に進行しています。
それが、半年、1年、それどころか人によっては5年も病気の進行が止まるのです。
この様に、使えるシチュエーションは、間違いなくあります。
そんな場合には、チャレンジする価値は十分にあると思います。
効果がある人だけに効果のある薬を使う
また、先程のイレッサあたりが境目になると思いますが、遺伝子検査をして薬が効く人と効かない人を予め見分ける事が出来るようになってきました。
がん細胞というのは、遺伝子にエラーを持った細胞です。
エラーというくらいですから、決まった変化ではありません、様々なパターンがあります。
近年、あるパターンに当てはまる場合には薬がよく効き、当てはまらない場合には効かないと言う仕組みがあることが分かってきたのです。
このようなことから、日本をはじめ様々な国で、症状(病気)と遺伝子パターンと治療方法をデータベース化しようとする試みが始まっています。
民間企業では、Foundation Medicine という会社がデータベースを構築しています。
またそのデータベースを使って救われた方もいます。
その方はまだ若い女性で、大学を卒業したばかりの2014年の春に、骨と目に転移してしまったIV期の非小細胞肺がんを患います。
彼女の腫瘍細胞が持つ遺伝子を検査したところ、ROS-1遺伝子に欠陥を持つ特徴が見つかりました。
データベースを検索したところ、ROS-1遺伝子に欠陥を持つがんの治療にはザーコリを試す価値が十分にあることがわかり、治療が開始されたのです。
翌年の2015年には、彼女からがんを見つけることは出来ないほどまでに回復したそうです。
ROS-1遺伝子に欠陥をもつ肺がん患者は、非小細胞肺がん患者全体の2%と言われており、このデータベースが無かったら、ザーコリを選択することは無かったかも知れないわけです。
日本では、分子標的薬の治療には遺伝子検査をおこない、適合する方に処方すると言う流れが出来ていますので、ザーコリが使われることはそんなに珍しくないかもしれません。
しかし、世界中には様々な人がいて様々な病気があります。
たった1例しか治った例がない病気だってあるはずです。
今までだったら、運を天にまかせて1例の治療を試していたところを、遺伝子レベルで同じ状況の方に治療を施すことが出来るようになってきていると言えます。
「抗がん剤は使ってはいけない」という言葉が、「効かない人には使ってはいけない」と言う言葉に変わるのもそんなに先の夢では無さそうです。