人工知能とがん治療

みなさん、人工知能と聞いて何を思い受かべられるでしょうか。
近年大きな躍進を遂げている、囲碁や将棋と言ったボードゲームのプログラムでしょうか。
将棋では、電脳戦と呼ばれる人間の棋士と人工知能(プログラム)が対戦するイベントが行われており、今や人工知能の成績は人間の棋士を超えたと言われています。
また、もっとも記憶に新しい例では囲碁の世界最強の呼び声も高い囲碁棋士と、人工知能が勝負をして囲碁棋士を負かしたことが報道されました。

この素晴らしい判断力を、医療の世界にも生かせないものかということで、様々な研究が行われているのですが、先日大きな成果が発表されました。

それが、人工知能によるがん治療支援です。

この研究はASCO(American Society of Clinical Oncology:アメリカ臨床腫瘍学会)という、世界でも著名な学会にて、2017年6月6日に発表されました。

この研究で使われたのはIBMが研究開発したWatson(ワトソン)と言う名前の人工知能です。
Watsonは、過去にアメリカでも最も著名なクイズ番組でチャンピオンを負かしたことから一躍有名になりました。

さて、このWatsonがどのような成果をもたらしたのでしょうか。

治験に適した患者を選択するのに要する時間を78%短縮

治験というのは、薬や医療が人間にとって有用なものであるかを見極めるための最終段階とも言えるものです。
見極めるために、対象となる患者は様々な条件の中から選ぶことが必要となります。
この作業にかかる時間が、1時間50分から24分へと短縮出来たというのです。

推奨治療法に関して、肺がんの症例に対し96%、結腸がんに対し81%、直腸がんに対し93%の一致率

がんには限りませんが、病気には推奨される治療法、すなわちガイドラインというものがあります。
Bumrungrad International Hospitalの専門医が選んだ治療法と、人工知能によって選ばれた治療法が、肺がんの症例に対し96%、結腸がんに対し81%、直腸がんに対し93%一致していたというのです。
他にも幾つかの病院において同様の試験が行われましたが、複数のタイプのがんに対する推奨治療法に関して83%の一致、リスクの高い結腸がんの症例に対し、73%の一致と高い一致率を達成しました。

人工知能はどのように使えるか

「人工知能が医師の診断を肩代わりする」と聞くと不安を覚える方がおられるかもしれません。
しかし、これを医師が使う高度な医療器具と考えてみるとイメージが変わるかもしれません。

主体となるのはあくまでも、医師と患者であって、膨大なデータの中から最適な治療を短時間で選び出し、その結果をじっくりと検討するという考え方です。

また、「医師が不足している」「専門医がいない」と言うような場合にも、有効でしょう。
医師がいないことで手探りの状態だったものが、端末が一つあれば専門医と同等の判断を下してくれます。

更には、これらのデータを使って医師が学習することも出来るでしょう。
今までは実際に体験しなければ得られなかった知識が、膨大なデータを使って学習することで大きく前進することでしょう。
これは、未来の有能な先生を育むのに大変適した方法だと思います。

Watsonは、現在7種類のがんに対応しているのだそうですが、今年中には12種類(全がん患者の8割に相当)のがんを診断できるようになるそうです。

また、研究には日本の医療機関も協力しているとのことで、近いうちに何処かの病院で出会うことがあるかも知れませんね。

IBMニュースリリース日本語訳
https://www-03.ibm.com/press/jp/ja/pressrelease/52549.wss
原文
https://www.ibm.com/press/us/en/pressrelease/52502.wss