抗がん剤とはどういうものか

抗がん剤とは何か

まず、「抗がん剤」というのが何を指しているのか?
これをハッキリさせないと話になりません。

なぜこんな言葉から始めているかというと、もちろん理由があります。
日本で専門的な知識を持たない人々によって認識されている「抗がん剤」というのは、がん治療に使われる薬剤のことを指していると考えられます。

これは専門的には「化学療法」と言う言葉で表されます。
まあ、専門家以外は混同したからと言って大した害はないので「化学療法」=「抗がん剤」という使い方がよく見られるのです。
この化学療法で使われる薬剤は、「抗がん剤」「ホルモン剤」「免疫賦活剤」など様々な種類に分けることが出来ます。

本来の意味の「抗がん剤」とそのはたらき

抗がん剤の定義は「がん細胞を殺す」働きを持っている化学物質といえます。
なんと、これで終わりです。

ちょっと意地悪な書き方をすれば、がん細胞「も」殺す働きを持っている薬です。
ですから、がん細胞を死滅させるために使われる手段は、健康な細胞にも当然影響します。
抗がん剤の基本的な働きは、細胞を死滅させることにありますが、がん細胞だけを識別することは容易ではないのです。

がん細胞だけを見分けるのは難しい

がん細胞が、通常の細胞と似ても似つかない非常に特徴的なものであれば話は異なるのでしょうが、似ても似つかないどころか、似ている部分がたくさんあります。

例えば、東京の大人気の観光地で日本人だけを見分ける場合、どうしたら良いと思いますか?
日本語で喋りかけて、日本語で返事をしたら日本人でしょうか?
日本語が堪能な外国の方はたくさんおられます。
黒髪や黒目の人だって、アジア系には珍しくありませんし、カラーコンタクトもあれば毛染めも出来ます。
外から分かる特徴だけで日本人を見分けるのは困難です。
上の条件に全く当てはまらないのに日本人である人だって沢山います。

昔からの抗がん剤というのは、日本語で返事をしたら日本人と決めてしまったり、黒髪黒目だったら日本人と決めたりしているようなものです。

がん細胞を見分ける方法を持っている分子標的薬

そこで、なにか見分ける事が出来ないか?ということで開発されたのが分子標的薬です。

例えば、見分ける方法を、パスポートを使って確認しようという感じです。
外国の観光客であればパスポートを持っているということで、パスポートを持っていない人は日本人だろうという考え方が近いでしょうか。
パスポートを持っているという事実だけで判断し、どこの国が発行したのか、パスポートを詳しく確認したりはしません。

最も大きな問題は「パスポートを持っている日本人」もその中に交じってしまうということです。

分子標的薬も似たようなものです。
細胞に標的となる特定の分子構造があるかどうかでがんを見分けますが、標的となる分子構造を持たないがん細胞もあります。
そうなると、全く使えないものとなってしまいます。

例え話の続きですが、もしも、パスポートを発行する役所の出口で確認したらどうでしょうか?
出てくる人の大半はパスポートを持っていますから、どんどん通過してゆきます。
しかし彼らの多くは日本人です。

完全に見分ける方法はあるのか?

現在も世界中で、がん細胞だけを攻撃する方法を開発しようと研究がなされていますが、完全にと言う意味では多分ムリだと思われます。

その理由は、がんという病気の特徴と抗がん剤の目的にあります。
がん(悪性腫瘍)の塊というのは、様々な種類のがん細胞があつまって出来ています。

人々の望みは、体内にある、あらゆるがん細胞を排除することです。

がん細胞だけを攻撃するという考え方は、「対象を絞り込む」ことを意味します。
絞り込めば絞り込むほど「特定のがん細胞」だけが対象になってゆき、「それ以外のがん細胞」は漏れてしまいます。

すなわち、「効かない」ということになります。

体内にある、あらゆるがん細胞を対象としようとすれば、関係のない細胞も巻き込んでしまいます。
効果は高まりますが、副作用が強くなり、場合によっては死んでしまうということになるでしょう。

なので、「関係のない細胞を巻き込む=副作用」が出るのはもう認めてしまって、その上で少しでも副作用が少なく効果の出る薬を開発するということになるのです。

有効範囲が狭いという特徴

見分けるのが難しいということは、かなりの高確率でがん細胞以外の細胞に影響を及ぼします。
これが副作用の主な原因ですが、もうひとつ原因があります。

薬剤には基本的に投与の幅というものがあります。
通常の薬剤は下のような感じで効きます。安全の幅も確保されています。
効く
|ーーー|ーーーー|
効かない    致死量

ところが抗がん剤は、致死量までの幅が非常に狭いのです。
効く
|ーーー|ー|
効かない  致死量

安全の幅が狭いので、副作用も出やすいということになるのです。

今回は、抗がん剤についての基本的なことを書いてみました。
がん治療には、抗がん剤以外にも、様々な薬剤を使った治療法(化学療法)があります。

それぞれの薬剤については、また解説することとして、今回はここまでにしておきましょう。