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ウイルスによるがん治療の現在と3つの区分

以前、ウイルスがガンを発症する原因のひとつであると言う記事を書きました。
今回は、そんな悪者が逆にがんを治療する役に立つ、という話をお伝えします。

ウイルスとはなに?

ウイルスというのは、病気を引き起こすものですが、非常に面白い特徴を持っています。

1.細胞はありません。
多くの生き物は、どんなに小さくても細胞を持っているものですが、ウイルスに細胞はありません。
2.自分で増えることが出来ません。
大抵の生物は、分裂して増えたり、生殖して増えたりすることが出来ますが、ウイルスには出来ません。
3.ウイルス以外のものは、倍々で分裂して増えますが、ウイルスは一気に増えて放出されます。
細胞の中で複製を作れるだけ作って放出されるイメージです。
4.大抵の生き物が出来る「エネルギー生産」も出来ません。

上記のどれかひとつが該当する生物というのはいます。
しかし、ここまで条件が揃ってしまうものは、ウイルス以外にはちょっと見当たりません。
なので、ウイルスを生物や生き物と呼んでいいかどうかが分かりません。

なのに、外見は下のような形をしていたりします。
右端なんかは、もう生き物の様にしか見えませんが、頭の部分に神経が入っているわけでもなければ、足の部分で歩くわけでもありません。

想像で絵を書いた訳ではなく、写真でも見ることが出来ます。文末に論文の詳細*があります。無料で全文読めますので、興味がある方は原本を参照されると良いかと思います。

様々なウイルス(左Wikipediaより、右BacteriophageSPOl*)

古くて新しいウイルス療法

ウイルスを使ったがん治療というのは、ニュースになることがありますが、そこまで新しい考え方ではありません。
Russellらが発表した論文「腫瘍溶解性ウイルスの歴史:遺伝子工学の起源。」**によると、

100年以上にわたり、ウイルスは、癌破壊の実験的な薬剤として追求されてきました。 1950年代と1960年代には熱狂を遂げ、1970年代と1980年代にはほぼ放棄され、過去20年間に関心が高まり、オンコリティック(腫瘍溶解)の最初の承認が成立したのは2005年11月のことで、遺伝子改変された腫瘍溶解性アデノウイルスH101のために中国の規制当局によって付与された。
For more than a hundred years, viruses have been pursued as experimental agents of cancer destruction. Interest in the eld has uctuated during this time, reaching fever pitch in the 1950s and 1960s, followed by near-abandonment in the 1970s and 1980s, and a resurgence of interest in the past two decades, culminating in the rst marketing approval of an oncolytic virus, granted by Chinese regulators for the genetically modi ed oncolytic adenovirus H101 in November 2005.

とあります。
そもそもの切っ掛けは、がんを罹患した患者が感染症を発症し、短期間のうちに寛解状態となる例が時折見られたと言う、偶然が生んだものでした。

1970?80年台にほぼ放棄されたのは、ウイルスをコントロールできなかったからです。それが、遺伝子工学の発展により、コントロールが可能になったのです。

ウイルス療法とは

ウイルス療法と一口にいいますが、じつは幾つかの種類に別れています。
がん治療を考えた場合には大きく3つに別れます。

ウイルスは、細胞にとりつき、細胞の内部で増殖し、細胞を壊して外に広がります。
ウイルスはどんな細胞にも取り付くかというと、そんなことはありません。
ウイルスと合致するレセプターがある場合に取り付くので、がん細胞にあるレセプターと同じものを準備することが出来れば、他の細胞には影響がありません。

ウイルスの治療薬も準備して行います。
万一ウイルスが増えすぎても、治療薬を使えばウイルスを除去できますから、かなり安全な治療方法と言えるでしょう。

腫瘍溶解性ウイルス

ウイルスが増える細胞を、特定の細胞、いわゆるがん細胞にしてやれば、がん細胞だけを壊してくれると言うのが基本的な考え方です。
同時に、もともと持っている病気を発病しても困ってしまいますので、病気を引き起こす機能は壊してあります。

ベクター療法

これは、ウイルスを運び屋として使おうという考え方のものです。
ウイルスは、細胞に取り付いて「遺伝子を注入」することで増えるのですが、この遺伝子をがん細胞を壊すものに改変します。
がん細胞に取り付いたウイルスが、遺伝子を注入すればそのがん細胞は壊れてしまうことになります。

免疫療法

この治療法は、ウイルスにがん細胞の目印(抗原)を作らせて、免疫細胞に取り込ませるというものです。
目印(抗原)を提示された免疫細胞は、目標となるがん細胞に攻撃をし始めるのです。

ウイルス療法はどこまで進んでいる?

アメリカでは、アムジェンと言う会社が悪性黒色腫(皮膚がんの一種)に対する治療薬として認可を受けています。
日本では、オンコリスバイオファーマと言う会社が有名です。
ウイルスを使った医療に特化した企業で、テロメライシンRというウイルスを開発して治験を行っています。
テロメライシンRは、悪性黒色腫だけでなく、肝臓がんや食道がんの治療に使えるとされています。
また、東京大学ではヘルペスウイルスを改変してがん治療を行う研究が行われています。

まだまだ、一般的に使われている治療法というわけではありませんが、期待を集めている治療方法のひとつであることには間違いありません。

注記

*BacteriophageSPOl StructureandMorphogenesis I.HeadStructureandDNA Size
M.L.PARKER,tE.J.RALSTON,AND F.A.EISERLING
Department ofMicrobiology and Molecular Biology Institute, University ofCalifornia, Los Angeles, California90024
Received 21 December 1981/Accepted 16 December 1982
上記論文より画像を引用

**History of oncolytic viruses: genesis to genetic engineering.
Kelly E1, Russell SJ.
Mol Ther. 2007 Apr;15(4):651-9. Epub 2007 Feb 13.