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安易な抗生物質の処方には断る勇気を

効かない抗生物質が漫然と処方されている

2020年1月の自治医科大学の畠山修司教授らの発表(*1)によると、日本の医療機関では抗生物質のおよそ6割が効果の無い病気に処方されていることが明らかになりました。

特に西日本のほうが、その傾向が強いのだそうです。

抗生物質とは

抗生物質というのは、細菌の活動を妨害する薬を指します。
世界初の抗生物質「ペニシリン」は世界の医療を激変させ、「奇跡の薬」と言われました。

そんな抗生物質が、今の日本では漫然と濫用されているのです。
ペニシリンの発明以降、様々な抗生物質が発明され、世に出回ってきました。

メディカルオンラインという医療用のサイトで、抗生物質を検索すると1128件もヒットします。
名前違いの薬なども含まれますが、先発品だけに絞っても555件という有様です。

こんなに数多くの種類があるのはなぜだと思いますか?

単に、お金儲けというだけではありません。
抗生物質は、種類によって効果のある細菌が異なるというのが理由のひとつです。

効かない薬がなぜ処方されるのか

医師の金儲けと怠慢が理由ではありますが、これは患者である私達の責任でもあります。
そもそも、抗生物質なんかを少々出したからと言って、たくさん儲かるわけではありません。
薬価は毎年のように安くなりますし、医薬分業で院内処方も少ないです。

ならば何故かというと、今風の言葉で言うなら、マーケティングというやつです。

私は昔医薬品の卸で働いていましたので、数多くのお医者様と話を話しをしたことがありますが、要らない薬は処方しないという先生はわずかでした。
その先生は、少々やかましいというか、必要な薬を飲まなかったり、必要なことをしなかったりする患者さんに対して怒るのです。
何も、偉そうにしているわけではありません。
丁寧な診察でしたし、ちゃんとしている患者さんには優しいものでした。
ただ、必要ないものは必要ないとはっきり言うタイプの良い先生だっただけなのです。

その先生からだけではないですが、薬を好む患者さんの話はよく聞きました。
要らないから薬を出さないのに「薬を出してください」と、薬をもらうことで満足する患者さんが数多く居るのです。

これを断るのが、少々骨が折れるのだろうと思います。

「あそこの医者は薬も出さん」と吹聴して回る迷惑な人もいるそうですので、とりあえず出しておくかという気持ちになるのもわからないではありません。

抗生物質の濫用が招く危機

そもそも、要らない薬剤の処方は日本全体のお金を無駄遣いしているわけですから、日本の課題になっている医療費の抑制とは全く逆の話になります。
そういう意味では、財政の危機を招いていると言えます。

ただ、そんなレベルの話ではないのが、スーパーバグの問題です。
スーパーバグというのは、抗生物質が効かない細菌の事を言います。

抗生物質が効かない細菌に感染しても、元気な人は体内の免疫細胞がやっつけてくれますのでなんとかなります。
問題は、なんらかの病気にかかって弱ってしまった人です。
抗生物質が効かないスーパーバグに感染してしまうと、もう手立てはありません。
運を天に任せて、人間の免疫が勝利することを願うのみとなります。

細菌は、互いに情報交換をして能力を強化したり、死んだ細菌の情報を得て能力を強化することが出来ます。
抗生物質を濫用すると、細菌はより多くの能力を学んでしまいます。
これでは人間が細菌の手助けをしているのと同じなのです。

そんなことにならないようにするには、濫用をやめるしかありません。
本当に必要なら、お医者様は必ず説明して処方しますので、できるだけお薬を使わないで治す方法をお願いするのが財政にも、そして世界の人々の健康にとっても良いことなのではないでしょうか。

 

参照

(*1)Indications and classes of outpatient antibiotic prescriptions in Japan: A descriptive study using the national database of electronic health insurance claims, 2012–2015
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1201971219304485?via%3Dihub&fbclid=IwAR2fdg5IWQh6l8QnKF8HI9DCSO_nhBgDGJUc0sKWICF5kM5PCOXmlAxzJMQ

上記内容をわかりやすく記事にしたものはこちら。(朝日新聞デジタル 2020/1/3付)
https://digital.asahi.com/articles/ASMDM6HKLMDMULBJ00S.html?_requesturl=articles%2FASMDM6HKLMDMULBJ00S.html&pn=5