低侵襲手術

さて前回は、手術の長所と短所について説明しました。
短所を克服するために、低侵襲化という手法が模索されていることも説明しました。

今回は、実際にどのような技術があるのかをご紹介していきます。

内視鏡手術

内視鏡に代表されるファイバースコープを口やお尻から挿入して患部だけを切除する手術です。
黒いチューブの先にカメラが付いていて中を見ることが出来ます。
また、検査の時に組織をとることも出来ます。
内視鏡の先から、針金の輪っかの様なものが伸びてポリープを取るのを見たことがある方もいるでしょう。

これが、内視鏡を使った手術の基本です。
カメラで見ながらチューブの先に付いた器具を使って患部を切り取るというわけです。

先端につける器具を変えて、レーザーで患部を焼き切る(焼灼)治療法もあります。

長所:
この治療の良いところは、からだを切開しないと言うところにあります。
治療内容によっては、その日に退院することだって珍しくありません。

短所:
基本的に、ファイバースコープで見えたもの、すなわち表面にあるものしか切除できません。
深く食い込んでしまったような病巣は得意ではありません。

腹腔鏡手術

腹部に数カ所の穴を開け、そこから長い棒を差し込んで治療をおこないます。
棒の先には、ハサミやナイフなど必要に応じた手術器具が取り付けられています。
内視鏡手術は、口やお尻からファイバースコープを挿入しましたが、この手術ではからだに開けた穴から挿入して、手術中の患部を観察します。

長所:
・内視鏡と異なり、深く食い込んだ患部も切除可能です。
・大きく切開せずに小さな穴をあけることで内臓が外気と触れる機会が激減します。
・また、切開による傷口が小さいので、出血も少なくて済みます。
・傷口が小さいので、回復も早くなります。

短所:
ただし、この手術は技術が高くなければ行なえません。
少し想像すると納得して頂けると思うのですが、例えば布団の中に何かが入っていて取り出すとします。
通常の手術は、布団カバーを切って中を見ながら探して取ることになります。

一方腹腔鏡手術は、穴を開けて棒を差し込んで探します。
中が非常に見にくく、器具も動かしにくいことになります。更には、差し込んだ棒状の器具には「支点」が存在します。
つまり器具は、支点を軸にして手を動かした方向とは逆に動くのです。

このような理由から、高い技術を必要とするというわけです。

ロボットによる支援(ダ・ヴィンチ)

腹腔鏡での手術は様々な制約があり厳しいものでしたが、この欠点を補うための新しい技術がロボットによる支援です。
基本的な考え方は、腹腔鏡での手術と同じで、複数箇所の小さな穴を開けて患部を切除するものです。

長所:
・技術の進歩により視野が確保され患部が非常に見やすくなった。
・ロボット制御により、器具を思ったように動かせる。
・ロボット制御により、人間では困難な角度、回転を行うことが出来る。
・手の震えなど、人間で起こる小さなブレをロボットが補正してくれる。
・細かい作業も、比較的大きな動きで行うことが出来る。
・腹腔鏡手術ほど高い技術は必要としない。

短所:
・ロボットを購入している医療機関はまだまだ多くありません。
・健康保険に適応している内容は以下の様なものですが
 一般消化器外科
 胸部外科(心臓外科を除く)
 泌尿器科
 婦人科
がん治療を考えた場合には、腎臓がんと前立腺がんの手術の適応があります。

これらは、ダ・ヴィンチを使った手術そのものの欠点ではありませんので、導入されている医療機関で可能であれば選択の価値は高いといえます。

ラジオ波焼灼法ほか

この手法は、主に肝臓がんの手術に使われます。
肝臓の腫瘍がある位置に、針を差し込みます。差し込んだ針の先からラジオ波が出ると、その周囲は焼けてしまいます。
これがラジオ波焼灼法と呼ばれるものです。

基本的なやり方を変えずに、先端から放出(照射)されるものが異なる手術に、アルコール注入法やマイクロ波凝固法というものがあります。
どの技法も、腫瘍に物理的な攻撃を直接加えるものですが、治療できる範囲が最も広く、治療効果が高いラジオ波焼灼法が主流となっています。

長所:
・切除しないのでからだへの負担が非常に少ない。
・多くは入院を必要としない。
・目的の腫瘍だけを攻撃する事ができる。

短所:
・ラジオ波が届く範囲は大きくないため、腫瘍が大きくなると対応できない。
・ラジオ波を浴びた周囲は焼けてしまうため、同時に何箇所も焼くことは出来ない。

以上、主な低侵襲手術について説明してみました。
病気や病状によっては選択できない場合も多々ありますが、手術を行う際にはこれらの方法が使えないかどうか、先生に質問されると良いのではないでしょうか。